感動とはなにか/「新しい関係」の発見と脳内フル発火

物語を求めるのはなぜか。

それは物語に感動を求めるから。

では感動を求めるのはなぜか。

それは脳みそが喜ぶから。

そもそも「物語」ってなに?「創作って?」「芸術(文芸)って?」ということは考えなきゃならない。

どうして人は「物語」に感動したり、そういったものに「美」を見出したりするの?

『詩学』という本に良いことが書いてありました。

詩学 (1969年) (筑摩叢書)

アリストテレスのじゃなくて、西脇順三郎という詩人の『詩学』です。

詩作の目的は「新しい関係」を発見することである。12p

僕これ読んだとき目から鱗でした。

ここで言う詩作というのは、もちろんポエムの詩ではあるんだろうけど、もっと大まかな意味で「美しさを呼び起こす感覚としての詩」だと思います。

詩的な表現とか、詩的な風景とかって言えば、それはポエムのことではなくて、絵になるとか物語になると言った意味になりますよね。

よって「新しい関係を発見する」というものは多くの芸術に共通した目的だと思います。

この発見はいろいろの感情を人間の脳髄の中に意識させる。まず、その感情は快感であり、美感である。私はこれを芸術美とでもいいたいが、必ずしも芸術とか美というような観念として意識しなくともよい。12p

具体的に「新しい関係」を作ることが詩作の目的だというのはどういうことか、見ていきましょう。

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物語に必須の「新しい関係」の提示

物語の基本構造は「問題の解決である」と聞いたことがあります。

これをもう少し掘り進めて考えてみると、確かに「新しい関係」があるということが分かる。

それは単純に「人と人」との新しい関係に留まらず、「人と環境」とか「人と状況」とか「人と概念」とか色々なものに当てはまります。

例えば『変身』の「グレゴール・ザムザ」は朝目覚めると「ベッドのなかの自分が一匹のばかでかい毒虫に変ってしまっているのに気が付」きます。

まさに新しい関係の発見です。

変身 (新潮文庫)

これはもちろん驚きます。読者は一行目から「どうしてこうなった!?」という「主人公と同様の問題」を抱えることになる。主人公は「虫になる」という意味不明な事態と関係してしまったのです。

不条理ものと呼ばれるだけあって、その原因が明かされない当たりが『変身』は特殊だけど、それがまた読者には問題となって、虫っていうのは何かの比喩なんじゃないかとか色々考えられる訳です。

初めての遭遇と記憶の関係

「新しい関係の発見」と「感動」の仕組みについて、もう少し合理的な説明が必要かと思います。

いつかの記事で、「人は論理ではなく感情を記憶するものだろう」というようなことを書いたことがあるのですが、実際に誰でも、これは感覚で知っているのではないでしょうか。

つまらない学校の授業なんて一切覚えてないけど、先生がしてくれた無駄話は覚えてるとか、つまらないはずの教科書だけど、一部分だけやけに覚えてるところとかってあるでしょう。

そのとき、僕らの頭の中では「感動」に近い脳みその働きがあったのではないか、と思うのです。

あの固い先生が余計な話してる!みたいな。

なぜ新鮮な出来事や驚きのような、心の動きがあったことを、僕たちは強く記憶するのでしょうか。

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)

この本の海馬の説明のところに適当な部分があるので引用します。

θ波は主に海馬から発せられる脳波で、一秒間に五回くらいの周波数(五ヘルツ)で規則正しくリズムを打つ特徴をもっています、この周波数のことを「θリズム」といいます。

とはいっても、海馬はいつもθ波をだしているのではなく、特定のときにだけθ波を発生します。もっとも顕著にθ波が現われるのは、新しいものに出会ったり、初めての場所にいったりして、あれこれと探索しているときです。

いままでに出会ったことのない初めてのものに遭遇すると、海馬はθ波を出して活動します。そして、目の前にあるものごとを海馬は記憶しようとするのです。

θ波は記憶しようという意思の表れです。81p

いままでに出会ったことのない始めてのものに遭遇すると、僕らの脳は活発に働いて、記憶しようとします。

僕らは感動したことをよく覚えています。

その感動はどこからくるのかというと、「新しい関係」を目の当たりにすることがきっかけとなる。

僕思うんですよね。例えば国語の教科書でやけに覚えてる小説作品とかがあったりして、そういうときにどんな感動があったかと思い返してみれば、「あれ、おれ、小説を読んで楽しいと思ってる?」という感覚だと思うのです。

「小説が楽しく読めるかもしれない自分」との出会いもまた、新しい関係の発見となり、感動を起こし、強い記憶となる。んじゃないか。

感動とはなにか/「新しい関係」の発見と脳内フル発火(完)

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