あの攻略本で覚えたのは天野喜孝氏のイラストと「ランダム」という言葉の意味でした。

僕らにとって、新しい言葉を知るのはそんなに難しいことではありません。

ここで言う言葉っていうのは何も外国語って意味じゃなくて(外国語でも良いんだけど)知らない言葉や知らない単語ってこと。

知らない言葉に出会ったら、検索でもすれば良いし、辞書でも引けば良い。

それを正確に記憶できるかどうかはまた別の問題だけど、僕ら言葉を知る方法を知ってからというもの、知らない言葉に出会って長いこと悩むということもしなくなりました。

きっと大人であればあるほど、小さい頃、初めて出会う言葉の意味が分からず、一日ずっとモヤモヤして、悔しくて、その言葉を憎たらしく思う感覚も忘れてしまっているだろうと思います。

また、新しい言葉の意味が感覚的にはっきりと分かり、霧が晴れて行くような感覚も、もしかしたら忘れてしまっているかもしれない。もちろん、憎たらしかった言葉が急に自分のものになって可愛く感じるような感覚も。

その喜びを忘れてしまいそうなとき、僕は「ランダム」という言葉との出会いを思い出します。

この経験は、僕が言葉に持つイメージの大事なことを教えてくれたのではないかと思うのです。

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ランダムって何だ!?

【中毒性あり】何度も繰り返し読む本(短編小説編)を書いていて思い出しました。

「そういえば、小さい頃何度も何度も読んだ本があった。ファイナルファンタジー4の攻略本だ」

いつやってたんだっけな、5才か6才くらいのときだったと思うんだけど、たいていの言葉や漢字はこの攻略本で覚えたと言っても過言ではない程繰り返し読みました。

当時からインドア派だった僕は毎日毎日飽きもせず一人でFF4をプレイしては、攻略本と睨めっこしていたのです。普通に攻略にも使ってたけど、武器や魔法の説明を読むのも面白かった。天野喜考さんの絵がたくさん載ってるのもこの攻略本の魅力でした。見飽きなかったから。シドの絵とかめっちゃ好きだったなあ。

本の後半には

FF4 攻略本

って感じの攻略チャートページがあって、楽勝のレベルに達するまで進まないっていう、石橋を叩いて渡るような子でした。

で、問題がこれです。

ff4 召喚魔法

この一番上のアスラの欄に書いてある「ランダム」って言葉の意味が、当時全然分からなかった。見えるかな。クリック(タップ)で拡大します。

ランダムとアスラの使いにくさ

当時の僕は悩みました。

小さかったから辞書を引くって発想もなくて、親とかに聞いてもよく分からないし、完全に行き詰ったと思った。

別に「ランダム」の意味が分からなくたって困らないんだけど、「効果はランダムってなんだよ」っていう気持ち悪さがずっとあって、アスラをちょっと避けてるところすらありました。

あ、アスラっていうのは、リディアっていう召喚士の女の子が呼べる召喚獣のことです(獣っていうより神様に近い感覚だけど)。召喚獣を呼ぶと一度戦闘フィールドに現れ、独自の強力な技や魔法を放って消えます。

そんでアスラ。「ランダム」って技をするのかと思いきや、レイズ・ケアルダ・プロテスという魔法のうちどれかを使ってくるというわけの分からなさ。

「ランダム」なんて技使わねえじゃんって。

「アスラ何するか分かんないだもん、使いづらいよなあ」とか、実はちょっと答え出てるのにそれにも気づかず、「ランダムってなんだ」ってずっと考えた。

ランダムと結びつかない概念

それでもアスラは面白みがあるのも事実なので、普通に使ってました。

アスラの面白いところは、まず詠唱時間がやたら長いということです。コマンドを入力してからアスラが出てくるまでにけっこう時間がかかるってこと。

それで、出てきたと思ったら何をするか分からないというのも、使いづらいけど面白いと言えば面白いことでもあった。

三種類の魔法を使いますが、これは回復魔法のケアルダと、補助魔法のプロテス、蘇生魔法のレイズです。これのいずれかを全員にかけてくれる。

つまり、敵を倒すのではなく、回復できるか、ちょっと物理防御に強くなるか、戦闘不能者が軒並み復活するかという回復・補助系の召喚獣なんです。

これは例えば5人中3人が戦闘不能状態で残り二人もHPが少なくピンチ!というとき、物理攻撃のダメージがちょっと減るプロテスをかけられても全然役に立ちません。

しかし、レイズをかけてくれたら、すごく助かるのです。ケアルダでもオーケー。

アスラの行動によって、大逆転できるか、あっけなく終わるかが決まるので、ギャンブルのような面白さがありました。詠唱時間が長いことも加わって、さらに一か八か感は高まり、ゲームを面白くしていた。

どの魔法が出るかはまったく予想できず、なんの法則性もなく、コントロールもできない。

そんな認識はあったのに、それと「ランダム」という言葉の意味が結びつかなかったのです。

ランダムに収れんしていく意味の数々

しかしある日、なんのきっかけか分かりませんけど、そんなアスラの行動と、ランダムの意味が急に結びついた瞬間がありました。きっと、閾値のようなものに達したのでしょう。

「あ!これがランダム…か?」って思いました。

何と言うか、こう考えればランダムという言葉の意味が説明できるぞみたいな、辻褄があった感覚、帰納法的な考え方で、いくつかの出来事が一つの言葉に収れんしていく感じ。

あのときのアスラも、あのときも、アスラはいつもランダムだった!あのときなんかは全然役に立たなくてムカついたけど、アスラはランダムだから仕方なかったんだ!ああランダムだ、ランダムだ、だんらむら!

ランダムがゲシュタルト崩壊を起こすかどうかという瀬戸際で、僕の頭の中のモヤモヤが急速に晴れていきました。

意味や概念が、「ランダム」という小さな箱にギュッと行儀よく収まって行くのが見えたような気がしました。同時に、箱からはみ出るものもありました。どうやらこれはアスラだけに使う言葉じゃないようだぞと。もっと広く一般的に使われる言葉だぞと。

つまり、アスラが放つ魔法、アスラを使うときの先が読めないスリル、まったくイーブンな可能性とゲームの面白さ、と言ったものは箱に収まらないようでした。

ちなみにgoo辞書でランダム【random】を調べるとこうです。

無作為・任意であること。また、そのさま「――に抽出する」

と書いてあります。そうだけど!ランダムはそうだけど!

当時、ランダムという言葉の意味にピンと来てから、攻略本のあのページを見直しました。「効果はランダム」と書いてあります。分かる!ランダムが分かる!全く違う文を読んでいる気がしました。

このとき僕が知ったランダムは、僕だけのランダムでした。実際はそうではないんだけど、僕が作りあげた「ランダム」だ、という感覚があった。

あの時の感動は、今も忘れがたいものがあります。

僕らの言葉は思っているほど役に立たない

僕らにとって、新しい言葉を知ることはそんなに難しいことではありません。

言葉の意味を調べる方法はたくさんある。気になったらすぐに調べられる。

それはもちろん素晴らしいことだし、正しい方法のひとつです。

だけど、たまにはそんなスマートさを疑ってみても良いかもしれない。

分かるでしょうか。

僕らは言葉という便利な道具を使って目の前の事象を理解しますが、言葉は道具であるが故に、必要に応じて発明されたものであるはずです。

僕らの頭の中には常に漠然としてまとまりの無い概念やストーリーと言ったものが不格好な形で、あるいは形のない状態で無数にストックされている。

いわゆる、「言葉にできない」こと「言葉以前の状態」が僕らの世界には溢れています。

「悲しい」という言葉は単純なようだけど、悲しい出来事は世の中に無数にある。

「愛」という言葉は誰にでも伝わるようだけど、その形、その行為は人によって違う。

だから、言葉の意味はたいてい実際より小さいし、言葉が持つイメージや形も、厳密には人によって違う。僕らが共有している言葉とは、あくまで最大公約数のようなもので、少なくとも共通している部分でしか機能しない。

僕らの使う言葉には、「言葉にならなかったこと」の方が多い。

「伝えられること」よりも、「伝えられないこと」の方が多い。

僕らは言葉という便利な道具を使って目の前の事象を理解しますが、その道具としての言葉は、それほど僕らの現実を忠実に再現なんかしてくれない。それには不十分すぎる。

もちろんこれは今の僕だから考えられることで、当時5才の僕が考えられるワケがないのですが、今思えば、こんな言葉に関する秘密は「ランダム」に教わっていたような気がするのです。

あの攻略本で覚えたのは天野喜孝氏のイラストと「ランダム」という言葉の意味でした。(完)

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