パイナップルの花束を君たちに~みんな混ざれ~(最終話)

前回のお話し→『パイナップルの花束を君たちに』~夜の体育館で声を潜めて待つ(9)

最初のお話し→『パイナップルの花束を君たちに』~彼らの大人になれなかった部分~(1)

アドリブ小説とは、僕は常に何とか一本のお話しを作ろうと努力しますが、時折挟まれるハル先輩のお題?に従って、内容を作っていかなければならないという遊びです。極端な話、「この回で終わらせて」と言われれば僕は終わらせる話を書かなければなりません。

というものなのですが、終わりに差し掛かるに従ってたたむことを考えると即興で行うのは難しく、更新に時間がかかってしまいました。

でもそれじゃダメなのだ、即興でやった意味がなく、辻褄を合わせようと考えすぎて手が止まるのではトレーニングにならない。

今度リトライします。次は時間と文字数を決めてその範囲内で書き上げるというルールにしようかな。

最終話です。

みんな混ざれ

生徒たちが揃った段階で、全員が舞台袖や用具室に隠れることにした。

懐中電灯とボストンバックを持った二人のお友達が体育館にこそこそと、くんくんと鼻を鳴らし入ってくることを期待した。

そして約10分後、ヤブサカとノウキンがそろりと体育館に入り込んできたのを見計らって生徒たちは立ち上がり、二人の教師を迎えた。

もっとも、教師たちは生徒たちが体育館にいることなんて思いも寄らなかったから、生徒たちが立ち上がった気配、影が動く気配を察知するも、ほとんど違和感程度にしか気に留めず、ずんずんと体育館の中央を行く。

もちろん、ヤブサカは生徒たちの動きや思惑を全て知っている。だからその影の正体も、これから何をするのかも何となく知った上でノウキンに付き合っている。つまりヤブサカ生徒たちの仲間であって、ノウキンの仲間だった。

この特別な感覚に不意に感動を覚え、ヤブサカも、今日はきっと良い思い出になると思った。

文化祭で使う、4色のフィルターがついたスポットライトが二本、交差するようにヤブサカとノウキンを照らした。

ギラついた赤・黄・青・緑が誰かの手によって回転し入れ替わり割り立ち代わりしている。ノウキンは眩しそうに片目をつぶり追い詰められた犯罪者のようで、ヤブサカはカラフルなライトを眩しそうに、ただし開き直った犯罪者のようにそれを頼もしく眺めていた。

先生、舞台の上に上ってください。いつの間にか二人の背後にいた大西がぼそりとそうつぶやいた。

舞台の上には演台の下に隠してあったはずのパイナップルが露出している。刺々しいシルエットを持って、甘ったるく香っている。

「あれ、隠したんじゃなかったのか」

とヤブサカが言う。

「もう面倒なんで良いです。隠すってほど隠してなかったし」

まな板の上にパイナップルが横たえられた。薄暗く顔は見にくかったが、その操作をしたのは圭太に違いなかった。

圭太は何も言わないままに、パイナップルの頭を切り落とした。

そして皮の上から輪切りにする予定なのだが、圭太はパイナップルの中央部分から包丁を入れ、真っ二つに割ると、それをノウキンに見せた。ほら、パインの中は空洞じゃないぞ、真ん中までぎっしり実が詰まってるぞ。

舞台の中央に移動したスポットライトは、圭太が掲げるパインの断面を黄色い明かりで垂らしだす。数秒経って、フィルターをくるくる回す。圭太の背後、舞台の奥は、パインを持つ圭太の影、演台の影、そして切り落とされたパインのトゲトゲした頭の影が大きく→に流れ、小さく舞台から滑り落ちた。

ノウキンはその光景に見惚れているようで、もしくは初めてみるパインの断面に驚いているようで、まったく大人しく佇んでいる。

圭太はイリュージョニストのように振る舞う。仮面をかぶっているかのように無表情で、包丁を高く掲げてはパイナップルを輪切りにしていく。

結局、彼らはパイナップルの正しい剥き方を調べることはしないまま、食べられれば良いんじゃない?ということで、適当に処理することにした。とりあえずノウキンに断面を見せてあげることが目標の一つ。これはクリアした。

もう一つは、ヤブサカとノウキンを含めたみんなで、何とか切り崩したパイナップルを、フルーツポンチにして、食べることだった。

輪切りにして、少々厚めに皮を剥いて、円盤状のパインをタイル状に四角く切っていく。

いつの間にか、誰かが体育館を出たらしく、パッと明かりがついた。パッとついた印象だったけれど、最初は薄暗くジリジリとライトが灯り、いっそ体育館中が青っぽく見えて、それからさらに数十秒経ってやっと明るくなった。

演台の横では、舞台に座り込んでユウトとミサキがかんづめを開けている。誰も二人を手伝わず、ただ座っている様子はきっと何も知らない、それこそノウキンのような男が見れば不自然だったかもしれないが、それは二人に気を使っているからこそであり、チームワークのなせる業なのだということをヤブサカは知っている。

愛と静香が気を利かせて家庭科室から持ってきた大きなガラス製のボール二つに、かんづめと、角切りにされたパイナップルの果実と、カルピスソーダが混ぜられる。

そこへ顔をとろけさせたカマト先生がやってくる。誰もが目を剥いた。今までに見たことがない柔らかい顔。生徒の合唱や演奏を聴きながら、「違うんだよなー」と言うときの嫌な顔をする人間には見えない顔。そして少し紅潮した頬に、決意の色も伺える。

今までどこに行っていたのか。誰もが忘れていたが、この様子だと校内のどこかに隠れていたらしい。下手したらずっと保健室で待っていた可能性もある。パインの匂いにつられてやって来たのかなんなのか分からないが、生徒たちにはもうどうでも良かった。

みんな混ざれ。

カマト先生はフルーツポンチではなくノウキンのところへ一直線に歩き、そして、「お付き合いのお申し出、お受けしたいと存じますわ」と何やら気持ち悪い口調で呟き、その場の全員を驚かせた。

「誤解です、誤解です」としか言えなくなっているノウキンを少し不憫に思い、大西と文美が二人の傍にフルーツポンチの入ったガラスボールを持って行く。ちょっと先延ばしになってしまうけれど、今だけパインのせいでおかしくなってるのかもしれないし、今日はもういいだろうという気持ちで。

「ああ、これどうやって食べようか」大西が言う。

「小皿とかスプーンとか、ないね」文美が言う。

「手で良いか」二人が顔を見合わせて言う。

「待ちなさい」そこへやって来たのは校長だった。

前に見たときよりも一回りくらい小さくなっている様子だったけれど、肌ツヤは良く、元気な様子だった。

手には給食のときに使う味噌汁のお椀と先端がフォークになっているスプーンが乗ったお盆。

問題を挙げるとすれば校長が小さめの給食着を着ていることだったが、ふざけてやっているのか、普通に着ているだけなのか判断できず、誰も触れないでいた。

「あ、校長」

「出てきたんだ」

誰ともなく、口々に言う。生徒は誰も校長を正視しようとはせず、フルーツポンチに意識を注いでいる。

ヤブサカが生徒と校長の間に立ち、こう言った。

「おいお前ら、リアクション薄すぎないか。校長がボケたら笑うくらいのことはしてやれって。まだまだ子どもだねお前らは。校長、そのサイズ合ってない給食着最高に面白いですよ。あと帽子はかぶらなくても、落ちる髪の毛ないじゃないですか。校長後頭部にちょっと髪の毛残ってるだけじゃないですか。肝心のそこが給食帽で隠れてないし。それに出て来るタイミングここですか。もー、ちょっとツッコミどころ多過ぎですよ」

「ヤブサカ先生、この場合生徒たちのリアクションが正解だよ。私はふざけてこんな格好しているわけではない。確かに言われてみれば滑稽なことをしているということに今気付いたが、ヤブサカ先生、大人ならもう少し遠慮というものができないものかね」

生徒たちがやっと笑う。

嘲笑する風ではなく、あくまで心から、校長の出で立ちも、ヤブサカの空回りも、ノウキンとカマトの不憫なやり取りも、面白くなって、なんだか笑う。

「なんかダメだな大人って」

「大人ってなんだろうな」

「私たちの方がまともじゃない?」

「パイナップル爆弾、どうなったんだろうね」

「さあ、解体成功ってことで良いんじゃない?」

「先生方あんま変わってないけど」

「まあ、もとからああだったんだろ」

「俺たちはちょっと大人になったんだろうか」

「分からん」

「分からんねえ」

「分ける意味もそんなに無いんじゃない?」

みんな混ざれ。

校長が持って来た器の数は少し足りず、みんなで一斉にいただきますとはいかなかったが、たくさんの果物が混ざって、トロピカルに美味しいフルーツポンチをみんなで食べた。

食べ終わった順にバスケットボールで遊んだり、舞台の上で横になったり、暗がりでお話しに興じたり、それぞれがそれぞれの時間の使い方をしたが、夜中だというのに、眠りに付く人間は誰もいなかった。体育館から出ていく人間も。

今日は良い思い出になるような気がする。

みんながそう思っていて、更けていく、悪ふざけに満ちた夜を惜しんでいるようだった。

パイナップルの花束を君たちに~みんな混ざれ~(最終話)(完)

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