桜の樹の下には何かが埋まっている!

「桜の樹の下には屍体が埋まっている!これは信じて良いことなんだよ。」

梶井基次郎の『桜の樹の下には』という作品の冒頭です。

続きはこうです。

何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。

僕の住むあたりでも、ようやく桜が咲き始めました。

家の庭に一本ある桜も咲いてるようです。

とりあえず部屋の中から一枚撮る。

庭の桜

ついでに川沿いに咲く桜を写真に撮ろうと思い、出かけました。

整列する桜を眺め、流れの激しい川を眺め、遠くから近くから、どのアングルが一番キレイに撮れるかを考えます。

「馬鹿みたいに、馬鹿みたいに、桜なんか撮って」とふいに思って、結局まともに写真を撮れず帰りました。

キレイな桜を撮って、キレイでしょって馬鹿みたいだ。桜を見たら馬鹿みたいに、やっと満開です桜の季節です出会いの季節です週末にはお花見はいかがでしょうかってブログに書いたりフェイスブックにあげたりするんだ。馬鹿みたいに。

ソメイヨシノはみんなクローンであるがゆえに時期が来たら一斉に咲くと言いますが、桜を見れば一斉にキレイと思う人の感性まで、クローンみたいに僕らの中に根付いているような気がしてすごく気味が悪いと思った。

「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」

花見の席でこんなこと言う人が実際にいたらヒンシュクを買うかもしれないけど、これは桜の美しさを信じられず、なんで桜はあんなに美しいんだろうって考えて、そうだあの下には死体が埋まっているんだ、これは信じていいことだって納得して、ああこれでやっと落ち着いて酒が飲めるぞっていう手探りの質感がある感性なのだと思います。

目を瞑っていても分かる美しさというか、いつでも思い出せる美しさです。

こういう風に、ある対象が持つ美しさを自分のモノにしてやっと「美しい」って声に出すのが本当なんだ。

じゃないとどうして美しいとか、キレイとか言えるんだろう。

「そうだ、そうとでも考えないと、あんなに桜が美しいと私が思うのはなぜかという説明ができないじゃないか、そうだそうだ。これだ」っていう、あらゆる概念に対する自分なりの質感が誰にでもあるはず。その質感をまるっと納得させるものが、「死体」ということもあるだろう。

「美しい(概念)」と「身に迫る感覚」の間には長い距離があって、キレイだと思うことと好きだと思うことは違い、もしかしたらまだ言葉になっていない好ましさを漠然と「キレイ」に当てはめているのかもしれない。

だからキレイなものを見て、キレイだと思って、キレイだから写真に撮って、キレイでしょって言うのは間違ってないけど間違ってないだけで正解でもない。

そんな面倒なことを考えながら、自分の家の庭にある桜の樹に戻ります。

庭の桜

別に僕は桜が好きな訳じゃないんだろうな。

でもやっぱりキレイだとはそれなりに思う訳で、その感覚の下には何かが埋まってる。

それが本当に好ましい感情なのかどうかも分かりません。

北海道の桜は入学シーズンに間に合わないし、そもそもピンク色って僕は日常の場面で選ぶ色ではないし、それにお花見とか満開の桜の樹の下でやった記憶がない。

ボソボソとした葉桜の下で、たいていは快晴でもなく、外にいると寒く、酔っぱらって大声を出してる人を見たり、焼き肉の後片付けをしたりしてるとちょっと惨めな気分になったりもする。

僕の桜の樹の下には、死体とは言わないまでも、たぶんそんなに良いものは埋まっていないと思います。少なくとも、死体みたいに劇的なものは埋まってない。

だってそんなに好きじゃないし。

季節の花なら紫陽花の方がよっぽど好きだし。

すぐ散っちゃうし。

せっかく咲いたんだから満開のうちに写真撮らなきゃって思ったけど、儚さが良いとかそんなんでもないさ、どうせ来年もまた咲くんだし。

舞う桜

咲くんだよね…?

ちゃんと来年もあったかくなったら咲くんだよね?

あーこんな風強かったらすぐ散っちゃうじゃないか。

明後日から雨かよ、桜散っちゃうじゃないか。

別に好きじゃねーしとか言ってても、なんだかんだこういう庇護欲に駆られてしまう。

穏やかな晴れの日はやっぱり桜を見て嬉しくなってしまう。

これが春というヤツで、桜は春の象徴ってことなんでしょうか。

桜 斜陽

結局こういうあざとい子が好きなんでしょ。桜を眺めていると自分の中の女性性が言う。

まあねー。あいやでもキレイだなーとは思うけど、好きとは違うかな、と僕の中の男性性が言う。

こういう複雑な感情を写真で、もしくは文章で表現するってバカみたいに難しい。

桜の樹の下には屍体が埋まっている!

よく言ったもんだ。

↓青空文庫のリンク貼っておきますね↓

桜の樹の下には

桜の樹の下には何かが埋まっている(完)

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