本当に好きなものは教えたくないという心理

コミュニティ・メカニズム

実にさまざまな心理が折り重なって、僕らは「好きなものだから人に教える」と「好きなものだけど人に教えない」という選択のどちらかをするのだと思う。

人に教えるタイプと教えないタイプがいると両極端に考えるのは少々乱暴で、たいていの人は状況や気分や相手に応じて教えることもあるし教えないこともある、という感じだと思います。

否定されたり微妙なリアクションされても嫌だから分かってくれそうだという確信が持てる人にしか教えない、なんてことはよくあるでしょう。

逆にその場しのぎの会話だったり単純な会話の端緒として「好きなもの」を気楽に話題にすることもあるはず。

ブログ記事た動画のシェアは抵抗なくするけど、本当に大好きなブログやチャンネルは拡散しようと思わないとか、好きな俳優の話で盛り上がるのは好きだけど、本当に恋をしている人の話はできないとか。

独占欲とか庇護欲とか認められたい気持ちとか共感したい気持ちとか(その正反対の気持ちとか)、人は何かと複雑な心理を持っていて、結果的に選択するアクションに一貫性がないなんてことはよくあるように思います。

だから好きなものを人に教えるときと教えないときが誰でもあると思うんだけど、自分の身で考えて微かな一貫性を見出すとすれば、本当に好きなものほど教えない」って傾向はあるなとは思うし、多分誰でも、出し惜しんでる何かは一つくらい持ってるんじゃないかなと思うのです。

だからなに?

というところから書き始めたいと思います。

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教えたくないというより、教える必要がない

「本当に好きなものほど教えない、教えたくない」という気持ちは多くの人が理解するところだと思うのですが、僕は教えないとか教えたくないって言うより「教える必要がない」という方が正しいんじゃないかなと思います。

冒頭でも書いたけど、僕らの心理は複雑で、例えば独占欲が前に出れば「誰にも教えたくない」になるし、だれかと共感したいという気持ちが前に出れば、「誰かに知ってほしい」になる。

あと誰かと共感したいとは思いつつ、微妙な顔されたり引かれたりしたらヤダなって思っていれば、「この人は!と思う人には教える」し、「あんま言っても分からなそうだなという人には教えない」という選択になるでしょう。

いずれにせよ、「好きなものを教える・教えない」という行動以上の、教えることでどうなって欲しい、教えないことでこうしたいという欲求や目的が僕たちの裏にはあるということですね。

そう考えると「本当に好きなものほど教えたくない」という気持ちも説明がつくというか、本当に好きだからそれそのもので満足していて、別に人に認められなくてもいいから「言う必要がない」ということはないでしょうか。

それでもやっぱり独占欲のようなものは残っていて、よく知りもしない人にファン面されたくないとか表面的な褒め言葉なんて聞きたくない、という思惑があるから、やっぱりあえて「言う必要がない」

だから例えば、密かに応援してた音楽アーティストが売れ始めると「もう私の知ってる○○じゃない」みたいな感じで寂しくなったり、ときには冷めてしまったりするのではないか。

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好きなものを道具にして欲望を満たす

音楽アーティストは良い例なのかもしれない。

例えば、やたらマイナーなグループを発掘しては応援する人なんかがいるとして、というかいると思うんだけど、この人が「好きなグループを人に教えるか教えないか」というとき、欲望の面では何が起るか考えてみたいと思う。

ざっくりそれを「自分の中でひっそり楽しむ」か、「あたりにその魅力を喧伝して回る」かの大きく二通りあるとして、ひっそり楽しむのであれば、先ほど書いたように、「満足しているからあえて人に言う必要がない」という状況だと思う。

そんでやたらそのグループの魅力とかを喧伝して回るのであれば、その「これが好きなんだ」っていうメッセージには必ずそれ以上の目的があって、それが欲望の不足を表しているのではないか。

例えば、「先見の明があると思われたい」とか、「音楽に詳しいと思われたい」とか「プロデューサーとか親のような立場を自分に投影してる」とか、もしくは、「あとは知名度さえあればもっと堂々とファンって言えるのに(倒錯気味)」と思ってるとか、「応援しているという姿をそのアーティストにアピールしたい(自意識過剰気味)」とか、そりゃもう様々な不足感が人にはあって、「好きなもの」を道具にして、それを補おうと考える。

あえて「道具」なんて言い方をしたけど、こんな風に道具的に扱っていることに絶対僕ら心の底では気付いてて、そこに微かな背信を感じていて、だからこそ「本当に好きなものって人に教えようと思わないよね・教えたくないよね」ってこともあるんじゃないか。

好きなものは「伝える」より「伝わる」方が

「本当に好きなもの」を誰かに伝えるのはリスキーなことだとなんだと思います。

一つは、コミュニケーションツールにしてしまった…という裏切りのような気持ちを抱くことになる危険性があるから。

そしてもう一つは、本来伝える必要を感じていなかった「本当にすきなもの」のことを伝えることで、「本当に好きなもの」が傷つけられる危険性があるから。それを人が理解してくれなかったり、カジュアルな好きさを身に付けられてしまったりして。

だけど僕ら、やっぱり自分の好きなものを好きだと言ってくれる人に会えると嬉しいものだと思います。

その点、ブログって「好きなもの」について書くにはとても良い媒体だなと思う。

だって「好きなもの」について書いたとしても、それを誰に伝えているという意識は乏しい一方的なコミュニケーションで、基本的にはただ嗜好を垂れ流しているだけですもん。

同じようにそれを好きな(少なくとも関心のある)誰かが検索して、「これが好きだー」って記事にたどり着いて、こっそり同感してくれたり、こっそり「私の方が好きだし!」とか、「キモい人いるなー」とか思ってくれて、お互い意識はあんまりしてないけど情報伝達というコミュニケーションが成立している。

僕の好きなキャラクターの話をした記事↓

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これらの記事けっこうキモイと思う。でも関心のない人には絶対と言って良いほど読まれない。ブログの安心なところです。

好きなものを「伝える」となると少しリスキーだけど、好きなものが「伝わる」のはなんか良いと思うんですよね。

本当に好きなものは教えたくないという心理(完)

コメント

  1. ぶちこ より:

    めちゃめちゃ面白かったです。
    ちょうどいま、大好きな本を人に教えたくない気持ちに整理がつかず、自分はケチなのかなとか考えていたところこのブログを拝見しました。
    人に言わなくても満足できるような趣味があるって「好きだから好き」っていう純粋さがいいですよね。羽川翼の記事も読みます!

    • 塚田 和嗣 より:

      ぶちこさん
      コメントいただきありがとうございます。
      好きなものや良いと思うものを人に教えたくないとき、自分はケチなんじゃないかと思うお気持ちよく分かります!記事がモヤモヤの解消に役立ったならうれしい限りです。
      羽川翼の記事は大変長くてすみません……という感じですが、お時間あるとき是非覗いてみてください!

  2. ぼびー より:

    はじめまして、いきなりコメントしてすいません。。こちらの記事を読ませてもらいものすごく共感した部分があり、自分のほかにもこういった事を思ってる方がいるんだということが嬉しかったです!自分が好きなものをあえて人には言わないのは、自分の世界で楽しめて満足できているからなんだということがわかり気持ちも整理できました。ブログ書いていただき本当にありがとうございました。

    • 塚田 和嗣 より:

      ぼびーさん
      ご返信が遅れまして申し訳ありません。
      こちらこそ、記事を読んでいただきありがとうございます。共感してくださる方がいらっしゃって僕もうれしいです。
      こんなこと考えてしまうの自分だけかもしれないなと思うことでも、書いておくとぼびーさんのように共感のコメントをくださる方がいて、僕としても気持ちの整理が進みます。
      自分の好きなこと、大切にしたいですね。

      塚田和嗣

      • ゆら より:

        コメント失礼します…
        この記事を読ませていただいてあなたの考え方にとても共感しました。自分はつい最近初めて人に薦めたくくないほど好きな作品に出会えました。それでモヤモヤしていたところ記事を偶然見つけ自分の考えを整理することができました。物事を深く考えていらっしゃる方だという印象を受けました。とても個人的な意見にはなってしまうとは思うのですが物事を深く自分なりに分析する方はとても魅力がある人だと思います。この記事を書いてくださりありがとうございました!読みやすかったです。長くなってしまい申し訳ありません。

        • 塚田 和嗣 より:

          ゆらさん
          こちらこそ、記事を読んでいただきありがとうございます。
          記事が少しでもお役に立てたならとても嬉しいです。僕自身、「本当に好きなものは教えたくない。この気持ちはなんだ?」とモヤモヤしたものを抱え書いた記事です(ちなみにその教えたくないものについてはまだこのブログでも触れたことがありません)。読んでくださる方がいることで、僕自身「けっこう普遍的な感情なのだ」と知り安心しています。コメントいただきありがとうございました。

          塚田和嗣

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