褒められる技術と褒める技術

発想と行動を記録する

誰も褒めてくれない。

きっと多くの大人がそう思ってるけど、せいぜい女子会とかでしかそういうボヤキは許されず、許されたとしてもガチなトーンで言っちゃいけない。

便宜上女子会と言ったけど男女関係なく、誰もが褒めまちをしては待ちぼうけをくらい、しびれを切らしたところでいやぁマジ先週まで仕事忙しくてさぁとか言ってヒントを出す、それでも褒められなかったらもうはっきり俺自分のこういうところすごいと思うんだけど、みたいに無理やり水を向けてまで褒められたいことがある、のはみんな一緒だと思う。

みんなわりと本気で誰も褒めてくれないってことに絶望しているし、どうしたら褒めてくれんねんって思ってるはずなのだ。

このアンサーはもう出ていて、記憶が正しければもうずっと前に出ていて、褒められたければまず他人を褒めたら良い。褒められる技術の初級に位置するテクニック。

褒められたい褒められたいと思うなら偉いことをするより何をするより他人を褒めたら良い。

褒められる技術と褒める技術は対で、これはなぜかかなり厳密に等価交換の原則が働いてるらしく、人を褒める習慣がある人はかなり褒められてる。

そして人を褒めるのが上手な人は褒められるのも上手で、褒められたときの返事のバリエーションも多岐に渡るのだから達者である、と思う。

嫌味にならず、否定するでもなく、やんわり褒め言葉を捕球する術があるらしい。

野球が上手な人と下手な人では実は球の受け取り方が全然違う。僕は実は高校まで野球部で全道大会にも出てるからそれなりに説得力あると思う(弱小地区だったけど)。

球の方から吸い込まれるみたいに、胸元でキャッチする技術、もしくはパシーンと大きな音を立てて相手が良い球を投げたと思わせるテクニックがある。

褒められ慣れている人は自由自在に褒め言葉をキャッチして、気持ちよく褒め言葉を投げさせることができるし、こいつを褒めて良かったと思わせる術を体得している。

 

褒められたら相手も褒めなきゃ気が済まないみたいな心理テクニック、なんて言っただろう。

「返報性のなんちゃら」と言った気がするけど、人は何かを与えられたとき、お返しをしなきゃ気が済まないってヤツ。

ある人と仲良くなりたければ秘密を打ち明けろなんてのも聞いたことがある。秘密を打ち明けたら、相手もお返ししなきゃと思って、同じ程度の秘密を打ち明けることになる。

そうして秘密を打ち明け合うと、自分たちはかなり仲の良い関係だと錯覚することになる。

そういう小手先のテクニックを使わずに褒められてえわ!ってのが本音なのが問題だ。

年賀状届いたから返さなきゃみたいな感覚で褒められてもそれは求めてた褒めとは違って、求めてるのは何の記念日でもないのに贈られる花みたいな褒め言葉で、メールでも済むのに手紙を出してくれるみたいな褒め言葉だ。

自分はなんて乙女チックなんだって思うけどみんなそうに違いない。不意の好意に対して舞い上がってしまうのはみんな一緒だし、だからたいてい一方的に褒められるのは待つことになる。

 

 

ところで、僕にはかなり尊敬する先輩がいて、その人は女性で、先輩と言っても当時のバイトの先輩なんだけど、ある日のバイトの帰り道

私、人褒めるのって苦手なんだ、と言った。褒めるの嫌、褒めるの恥ずかしいから絶対褒めたくないんだ!褒めると負けた気がする!と言った。

衝撃的、閃光、いつも胡乱(うろん)な表情の札幌の街にさわーっとした風が吹いて、車のライトもビルの窓から漏れる明かりもはっきり輝いて見えた一瞬だった。疑いようのない夜。素敵な一日。

自分でもなんでだよって思うけど、人生通して1万回くらいしかない貴重な瞬間の一つとして僕はよく覚えてるし、そういうのは選んで決めるわけじゃないのだから仕方ない。

マジか、そんな人いるのか、いいやめちゃくちゃ分かる、人を褒めるのはなんか恥ずかしいし、素直にできない、褒めたら負けだとまでは思わないけど、人を褒めるってうまくできない。背中と言わず口の中と言わず、なんだか非常にむず痒くなる。

ついでに言えば大人になると褒めて褒められての応酬もある程度普通のこなせるようにならなきゃいけなくて、相手が褒めてほしそうなところをしっかりキャッチして褒める程度の如才なさは必要なのは分かるけど、そういうのわりと全部しんどい。

多分こういうことってあんまり言っちゃいけないんだと思うけど、先輩はわりと大きい声で言った。

 

本当は、すごい素直ですね、そういう素直なところマジですごいと思います!逆に信用できますよね!くらいの反応はしたかった。

でもその程度のこともなんだか白々しく感じて、分かります、めっちゃ分かりますって笑いながら言うので精いっぱいだった僕はそれなりに口下手である。

心の中では、きっと先輩にとって今のはかなりの秘密で、というかわざわざ言う機会のないことで、褒めたり褒められたりを経験する度に、背中にむず痒いものを感じながら過ごしてたことを教えてくれたのかなと感じたことが嬉しかった。

考えたらマジで全然褒められたことないけど、「こいつには話しても大丈夫だ」って思われたのかもしれないと思うとまだ心がほっこりする。

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