ライトノベルは軽いのか、それとも明るいのか

woman sitting on window reading book文明と文化
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ライトノベルの定義って明確な答えが出ないままになっていると思う。

出版レーベルによるのか、内容によるのか、挿絵があるかどうかで決まるのか。

どれもライトノベルを構成する要素になるには違いないけれど、それはどれも十分条件でしかない。

いずれにせよ、ライトノベルと言えばあまり読書をしない人でも読める「軽い」小説のジャンルであって、漫画の文字盤みたいに何となく考えている人が多いんじゃないかと思う。

アニメ化前提の小説というか、中高生が読むようなもので、文学とは違う、みたいな。

僕も何となくそう考えていたことがありますが、ライトノベルに分類されているものを少しでも読めばどうもそうも言ってられないことが分かるというものです。

今日書きたいのは、ライトノベルは軽いのか、いやライトノベルのライトは「明るい」の意味だろう、という話です。

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ライトノベルは明るい文学。暗いに対する明るいではなく、陰に対する陽のこと

ここで言う「明るい」というのは、「ハッピーである」とか、「陽気である」という意味の明るいとは少しニュアンスが違います。

陰陽思想で言うところの明るいです。陰陽思想?易学?ちょっとすみません僕もきちんと分かっていないんですけど、暗いに対する明るいではなく、陰に対する陽のこと。

八卦ってありますね。この八卦のことを思い浮かべているのです。

「当たるも八卦当たらぬも八卦」って言うけどこの八卦ってなんのことだかご存知でしょうか。

ウィキペディアの記事貼っておきますね。

八卦

リンクに飛ばない人のために卦、八卦の端的な説明部分を引用しておきますよ。

 

卦は爻と呼ばれる記号を3つ組み合わた三爻によりできたものである。爻には陽(剛)と陰(柔)の2種類があり、組み合わせにより八卦ができる。

この八卦で森羅万象が説明できるようです。

つまり、この世の全てのものは陰と陽に分けることができる。でも世の中、陰と陽だけじゃないですね。表があれば裏があるなんて必ずしも二項対立で語れないのがこの世の複雑なところです。この世のすべての人が悪人と善人に分けられるなんてことはないでしょう?

陽の中にも陰と陽がある。陰もまた陰と陽に分けられる。それでもなおまだ足りない。もう一回、陰と陽を振り分けよう。つまり+++の卦から、---の卦まで八通りある(乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤←全部の卦に名前がついてるのですね)。

余談だけど「乾坤一擲(けんこんいってき)」っていう言葉があるじゃないですか。この乾と坤は八卦の内の全部陽を表す「乾」と全部陰を表す「坤」のことですね。乾は天、坤は地を表し、乾坤一擲とは天か地か、つまり一か八かをかけた大勝負のこと。

ライトノベルの「ライト」というのは、八卦で言うところの「陽」、つまり「乾」をはじめとした、陽性が優位なものを意味するのではないか、という意味で「明るい」なのだと思うのです。

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陰陽とは「善悪」とか、「幸不幸」のようなものではなく、トーンのようなもの

全部が陽(乾)じゃなくても、八卦の内「陽」が優勢のものを僕らは陽と見做すと思います。

「陰キャ」とか「陽キャ」って言葉は普通に使われているように、物事が陰と陽に分けられること、そしてその陽さとか陰さにはグラデーションがあることを僕らは大人から子どもまでみんな知っている。

ライトノベルかそうでないかは、陽キャ的な性質に属するかどうかで何となく判断されるものではないか。

それにしても「ライトノベル=陽キャ的な性質」ってよく意味が分からないですよね。

だからそれってハッピーとか楽しいって感じの、色で言えば黄色っぽいもんなんじゃないの?でもライトノベルにも暗い話はあるぞ?残酷な話もあるぞ?と思うのではないでしょうか。

しかし、ここで言っている陰陽というのは、「善悪」とか、「幸不幸」のような主観に則った区別ではなく、あくまでトーンのようなものです。そこを取り巻く地場の明瞭さと言っても良いかもしれませんし、あからさまかどうかと言っても良いように思います。

陰陽の関係に造詣が深い谷崎潤一郎『細雪』を例に

ここで引き合いに出したいのは谷崎潤一郎先生ですね。『陰翳礼讃』を著した、陰と陽の関係に造詣の深い大文豪です。

細雪に関する記事を以前書きました。

谷崎潤一郎『細雪』/雪子の陰翳を担うトラブル(下痢)が示す日本的な美

 

『塩一トンの読書』という本の中に、谷崎潤一郎の『細雪』についての章があるのですが、ここでは谷崎が二つのモードを織り交ぜて書いていると喝破しております。

雪子についての叙述が、ドラマ性のうすい、日常のこまごました出来事や人物をとりかこむ事象の、どちらかというと平凡な浮沈(「繰り返し」の手法と秦恒平氏が谷崎の『芸談』、『陰翳礼讃』を引いて指摘した)を主とする平坦ともいうべき「ものがたり」的な作法にしたがって話がはこばれる反面、妙子については、男から男への遍歴につれて変容し、水害、板倉の死、赤痢、出産につづく赤ん坊の死という、不可逆的な時間の上に設定される、高低の多い、ドラマ性を核とした構成がみられる。この二つの作法をないまぜにして物語を進行させている点に、私は谷崎の非凡な才能を見るのである。 河出文庫『塩一トンの読書』108p

蛇足になるかもしれませんがもう少し引用させてください。より分かりやすくなると思います。

人生に挑んだ西洋的な妙子と、生の流れに身をゆだねる日本的な雪子という昭和初期に生きた対照的な姉妹の姿を、ストーリーの展開を単に異質な二つの性格描写といった安易な手法にゆだねることなく、西洋的な小説作法にのっとった「小説」的なプロットと、日本古来の「ものがたり」的な話の運びをないまぜにして織りあげるといった、構築力とふところの深さに、私はつよい感動をおぼえる。同上117p

ここで僕が言っている陰陽の別というのは、出来事のトーンのようなことだということが何となく伝わったかと思います。

不幸なこと=陰でも、幸福なこと=陽でもなく、色合いとして淡いのか、鮮明なのか。

同じ黒でもペンキでべた塗りしたような黒もあれば墨で描いた黒もあって、前者が西洋的な感じを受けるとすれば後者は東洋的な感じをうける。白も同様。

『陰翳礼讃』において谷崎は西洋的な美、東洋的な美という話を繰り返しており、「陰翳」を礼賛するという題になっているわけですから、そんな谷崎が『細雪』において、派手なプロットの妙子を主人公にしたのではなく、雪子の方を主人公に据えたのも頷けます。

細雪の話は別の記事を参照していただくとして、ここで考えたいのは「ライトノベル」が「明るい」という話題です。

明るい地場を持つ小説をライトノベルと呼んでいるのではないか

ライトノベルかどうかを内容で判別するとすれば、明るいとか暗いとかで区別することができないことは明瞭です。話の内容によってライトノベルかどうかが決まることはありません。

しかし、明るい地場を持っているとは言えると思います。この明るい地場とは、繰り返しますが善悪や幸不幸ではなく、トーンの話なのです。ビビットで、輪郭がはっきりしており、谷崎が言うところの西洋的な美を持つものです。

思えば(これも谷崎が憂いていたことではありますが)我々は西洋的な美に迎合する形で生きています。

文明のほとんどは西洋的なデザインを取り入れることになっています。僕らが新築の家を建てるなら確実に西洋的なデザインのものにするでしょうし、今使っているPC,スマホ。ハードに限らず中にあるアプリも全て西洋的な合理性に裏付けされたものであります。

各種SNSもそうです。明るいものが求められる。それは、やはり繰り返しになりますが善悪、幸不幸の区別ではなく、トーンの問題。くっきりしているか、分かりやすいか。文明的かどうかです。

ブログ記事の主張は曖昧では受け入れられません。youtube動画も見てどんな感情になり、どんな情報が受け取れるのかが分からなければ再生されません。Twitterでバズるのはやはりビビットな話題です。

西洋的なデザインに迎合する形で文明は発展しているように見えます。

文というものはそもそも陰に属するものだが、ライトノベルは最初からちょっと陽性を持つ文芸のジャンル

ただし、そもそも「文」というのが陰に属するものだと僕は思います。ライトノベルに限らず、一般小説でも。

話すこと、歌うことと比べると、じっと文字を追うのは陰翳の方に属する、明を引き立てるための領域であるように感じます。本って陰キャのアイテムじゃないですか。基本的に。だから陽性の地場へ侵入するための並々ならぬ工夫が必要なんだろう。

しかしライトノベルというジャンルは少し特別で、小説という陰で書かれるものでありながら、最初からちょっと陽性を持つ文芸だと思うのです。

陽性的な要素として、挿絵(日本が尋常ならざるロリ愛によって磨き続けたキャラクター)があったり、非現実的な名前のキャラクターが配置してあったり、アニメ的な話し言葉を使ったりということがあると思います。

つまり、それらはライトノベルの条件ではなくて、ライトノベルの地場へ侵入するための手続き的な手法だと僕は考えるというわけです。

加えて言えば、日本には日本独自と言って差し支えないレベルの漫画文化があり、アニメ文化があった。これが小説と文明をうまいこと結び付ける役割を担っていた、のかな?ここまで踏み込むと知ったかぶりがバレるから控えておく。

 

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